黒色矮星 (Black Dwarf)
黒色矮星(こくしょくわいせい)とは、太陽のような比較的質量の小さい恒星が、その一生を終えた後に残される「白色矮星(はくしょくわいせい)」が、さらに途方もない時間をかけて完全に冷え切り、光も熱もほとんど放出(ほうしゅつ)しなくなった状態を指す、理論上の天体です。
太陽程度の質量の恒星は、燃料である水素を使い果たすと、やがて中心核を残して「白色矮星」という高密度な天体になります。白色矮星は、生まれたばかりは非常に高温で白く輝いていますが、内部ではもう核融合(かくゆうごう)が起きていないため、新たなエネルギーを生み出すことができません。
そのため、白色矮星は宇宙空間に熱を放出しながら、何十億年、何百億年という非常に長い時間をかけてゆっくりと冷えていきます。
最終的に、その温度が宇宙空間の背景温度(宇宙背景放射)とほぼ同じ、絶対零度(マイナス273.15℃)に限りなく近い温度まで冷え切り、観測不可能なほど暗くなった状態が「黒色矮星」と呼ばれます。
ただし、白色矮星が黒色矮星になるまでには、現在の宇宙の年齢(約138億年)よりもはるかに長い時間(数千億年〜1兆年以上)が必要とされています。そのため、現在の宇宙にはまだ黒色矮星は一つも存在しないと考えられています。これは、宇宙がまだ「若すぎる」ためです。
【もっと詳しく】
黒色矮星は、恒星の進化の最終段階を示す理論的な存在です。その前段階である白色矮星は、主に炭素や酸素からなる中心核が、電子の縮退圧(でんしのしゅくたいあつ)という量子力学的な力によって、自らの強大な重力を支えている天体です。
白色矮星の冷却プロセスは非常に遅く、そのエネルギーは蓄えられた熱エネルギー(イオンの熱運動)が光子として放出されることで失われていきます。冷却が進むと、内部のイオンは気体状から液体状、さらには固体状へと結晶化(けっしょうか)していくと考えられています。この結晶化の際に放出される「潜熱(せんねつ)」によって、冷却のスピードが一時的に遅くなる時期もあると予測されています。
計算上、白色矮星が宇宙マイクロ波背景放射(CMB、約 $2.7$ K)と熱平衡(ねつへいこう)状態に達し、黒色矮星と呼べる状態になるまでには、$10^{15}$年(1000兆年)といったオーダーの時間が必要とされます。現在の宇宙年齢は約 $1.38 \times 10^{10}$年(138億年)であり、最も古い白色矮星でさえ、まだ数千ケルビンの温度を保って輝いています。
したがって、黒色矮星は、現在の宇宙ではなく、宇宙の終焉(しゅうえん)が近づく「縮退星の時代」の遠い未来において、宇宙の主要な構成要素の一つとなっている天体だと予想されています。
解説中のキーワード
- 白色矮星 (White Dwarf)
- 恒星 (Star)
- 核融合 (Nuclear Fusion)
- 宇宙背景放射 (Cosmic Background Radiation)
- 絶対零度 (Absolute Zero)
- 電子の縮退圧 (Electron Degeneracy Pressure)
- 結晶化 (Crystallization)
- 潜熱 (Latent Heat)
- 宇宙マイクロ波背景放射 (Cosmic Microwave Background – CMB)
- 熱平衡 (Thermal Equilibrium)
