英語: Cosmic Dust (コズミック・ダスト)
宇宙塵(うちゅうじん)とは、宇宙空間に存在している、非常に小さな個体の粒子のことです。その大きさは、分子数個が集まったナノメートル(10億分の1メートル)サイズのものから、砂粒ほどのマイクロメートル、ミリメートルサイズのものまで様々です。
これらは「宇宙のチリ」や「ホコリ」とも言え、星と星の間の空間(星間空間)や、太陽系のような惑星系の内部(惑星間空間)など、宇宙のあらゆる場所に漂っています。
その主な成分は、ケイ酸塩(岩石の主成分)、炭素(ススのようなもの)、そして場所によっては氷(水や一酸化炭素など)です。これらの宇宙塵は、星がその一生を終えるとき(赤色巨星や超新星爆発)に宇宙空間にまき散らされたり、小惑星同士が衝突して砕けたり、彗星(ほうき星)が太陽に近づいてガスやチリを放出したりすることで生まれます。
私たちにとって身近な「流れ星(流星)」の多くは、この宇宙塵が地球の大気に高速で突入し、摩擦熱で燃え尽きる現象です。
宇宙塵は単なる宇宙のゴミではなく、新しい星や惑星が誕生するための重要な「材料」となります。また、太古の地球に水やアミノ酸などの生命の材料(有機物)を運んできた可能性も指摘されており、生命の起源を解明する上でも注目されています。
【もっと詳しく】
宇宙塵は、その存在する場所によって大きく二つに分類されます。
- 星間ダスト (Interstellar Dust) 恒星と恒星の間の空間(星間空間)に存在するダストです。これらは主に、恒星の進化の最終段階(赤色巨星やAGB星)で放出されるガスや、超新星爆発によって供給された重元素が、宇宙空間で冷えて凝縮することによって生成されます。 主成分は、ケイ酸塩(シリケイト)鉱物の微粒子や、炭素質物質(グラファイト、非晶質炭素、多環芳香族炭化水素(PAH)など)、そして低温領域ではこれらを核として水や一酸化炭素、アンモニアなどの氷(アイスマントル)が覆っています。 星間ダストは、恒星からの光(特に可視光や紫外線)を吸収したり散乱させたりする性質(星間減光)を持ちます。これにより、遠くの天体が実際よりも暗く、赤っぽく見える原因となります。また、吸収したエネルギーを赤外線として再放射するため、赤外線天文学において重要な観測対象です。 さらに、星間ダストの表面は、宇宙空間における化学反応の「触媒」として機能します。特に、宇宙で最も豊富な水素分子(H₂)の生成は、ダストの表面で効率的に行われると考えられています。 これらのダストが集まった高密度の領域(分子雲)は、新しい恒星や惑星系が誕生する「星のゆりかご」であり、ダストは原始惑星系円盤を形成し、やがて惑星の核となる材料そのものです。
- 惑星間ダスト (Interplanetary Dust, IDP) 太陽系内部の惑星間に存在するダストです。主な起源は、彗星が太陽に近づいた際に放出する粒子(ダスト・トレイル)や、小惑星同士の衝突によって生じた破片、エッジワース・カイパーベルト天体からの供給などです。 これらのダストは太陽光を散乱させ、日没後や日の出前に空が淡く光る「黄道光(こうどうこう)」という現象を引き起こします。 地球の大気圏に突入し、燃え尽きずに地表や成層圏で回収された惑星間ダストは「マイクロメテオライト(微小隕石)」と呼ばれます。これらは太陽系初期の情報を保持しており、中にはアミノ酸などの有機物が含まれているものも見つかっています。これは、地球の生命の起源となる物質が宇宙から供給されたという「パンスペルミア説」の証拠の一つとして研究されています。
キーワード
- 星間ダスト (Interstellar Dust)
- 惑星間ダスト (Interplanetary Dust, IDP)
- ケイ酸塩 (Silicate)
- 炭素質物質 (Carbonaceous Material)
- 星間減光 (Interstellar Extinction)
- 分子雲 (Molecular Cloud)
- 原始惑星系円盤 (Protoplanetary Disk)
- 彗星 (Comet)
- 小惑星 (Asteroid)
- 流れ星 / 流星 (Meteor)
- マイクロメテオライト / 微小隕石 (Micrometeorite)
- 黄道光 (Zodiacal Light)
- 多環芳香族炭化水素 (Polycyclic Aromatic Hydrocarbon, PAH)
