2025年6月17日、高度271m超の離着陸実験に成功
Hondaが掲げる「HONDA The Power of Dreams」を体現する、新たな挑戦が結実しました。Hondaは2019年より宇宙領域の研究をスタートし、「循環型再生エネルギーシステム」「宇宙ロボット」「サステナブルロケット」の3つのプロジェクトを進めています。
Hondaは、2025年6月17日に、サステナブルロケット実験機の高度300mまでの離着陸実験を実施し、成功を収めました。これはHondaとして初めてのロケット離着陸実験です。
この実験の目的は、上昇・下降時の機体の安定性や着陸機能といった要素技術の実証でした。ロケットは実際に高度271.4mまで上昇し、無事に着陸を果たしました。
実験の直前、現場には「言葉にならないほどの緊張感」が漂いましたが、着陸後に安全確認が完了した瞬間、無線越しにメンバーの大きな歓声が響き渡りました。技術者たちは、今回の成功を特別なものとして喜びつつも、目指すのは「これを特別なことではなく当たり前にすること」だと語っています。
Hondaが目指す究極の目標は、再生可能燃料を用いた再使用型のロケットにより、持続可能な宇宙輸送の実現を目指すことです。
Hondaにしか作れないロケット:コア技術と技術者のこだわり
再使用可能なロケットは技術的難度が高い分野ですが、Hondaが挑むのは、地球でビジネスを行う企業の責任として環境負荷へ配慮し、使い捨てではなくサステナブルな再使用型にトライすべきだと考えたからです。
このサステナブルロケットの開発には、Hondaが自動車やバイク、そしてホンダジェットやF1などを通して培ってきた燃焼や機体の制御技術などのコア技術が最大限に活かされています。この開発を通じて、技術者たちはHondaが培ってきた技術や知見の幅広さを改めて実感したといいます。
特に困難を極めたのが、ロケットの心臓ともいえるターボポンプの自前開発でした。ロケットエンジンに使用される液体推進薬(メタンと酸素)はマイナス160℃〜180℃という極低温であり、社内には知見が全くありませんでした。それでも、ターボポンプはその性能自体でロケットの品質が決まるほど重要であるため、高いハードルを承知の上で自前開発にこだわり、宇宙空間を目指す上でいずれ必要になるこの重要技術を実験段階から搭載しました。
また、離着陸の際に上空で開いた**グリッドフィン(制御翼)**が着陸直前に閉じる様子も印象的でした。これは着陸後の安全確認工程をスムーズにするためですが、技術者の「閉じた方がかっこいい」というこだわりも反映されています。
なぜHondaは宇宙に挑むのか?「人の可能性を拡げる」三つの意義
なぜHondaは思い切った宇宙領域への挑戦を決めたのでしょうか。その根底にあるのは、「人の役に立つならやってみよう」というHondaの社員の多くが持つマインドです。Hondaは、自動車やバイクに限らず、宇宙も人々の可能性を拡げるフィールドになり得ると考えています。

1. 持続可能な社会への貢献
地球上のエネルギー資源が限られている現状において、宇宙で活動するために毎回エネルギーを地上から運ぶことや、ロケットを使い捨てることは持続可能性の観点から困難です。Hondaは、宇宙空間でエネルギー循環ができる体制を構築することが、今後の社会にとって不可欠なテーマだと捉えています。Hondaのコア技術を活用することで、持続可能な社会の実現や人々の暮らしを豊かにできる可能性があると信じています。
2. モビリティ・カンパニーの進化
今後、地球全体の経済活動は「ヒトとモノの移動」から「データの移動」へとシフトし、データの流通量が爆発的に増えると予測されています。このデータ通信を担う人工衛星の需要拡大にロケットは欠かせません。
現在運用されているロケットは打ち上げ費用が高額であり、民間企業やスタートアップにとって活用ハードルが高いのが現状です。Hondaは、モビリティ・カンパニーとして、人工衛星を拡大するために、ロケットの低コスト化、利便性向上、サステナブルな輸送機の開発に取り組み、データの移動にも貢献することを目指しています。
3. 技術者の夢の実現
このプロジェクトの原点には、若い技術者たちの「宇宙に挑戦したい」という夢があり、その想いを具現化することも大きな意味を持っています。彼らにとって、「宇宙に関わりたい」という個人的な夢は大きな原動力であり、創業者の「会社のために働くな、自分のために働け」という言葉にも通じています。

宇宙をもっと身近に:Hondaが描く未来
Hondaの技術者たちがこのロケット開発の先に描いているのは、宇宙が今よりもっと身近になる未来です。
実験実施責任者の池谷氏が語るように、彼らが実現したい世界は「飛行機が空港に離発着するくらいの感覚で、民間ロケットが宇宙と地球を行き来する世界」です。
このミッションを達成することで、「宇宙をもっと身近にして、多くの人の暮らしを豊かにしていく」ことこそが、Hondaの目標です。ロケットの低コスト化や再使用化を通じて宇宙活用のハードルを下げることで、「宇宙の利用をもっと身近にする」という夢を何としても達成しようと、技術者たちは全力を尽くしています。。
