ビッグバン (Big Bang)
ビッグバンとは、現代の宇宙論において、私たちの宇宙がどのようにして始まったかを説明する最も有力な標準理論(モデル)です。
今から約138億年前、宇宙は全体が信じられないほど高温かつ高密度な状態(「火の玉」や「点」と表現されることもあります)から始まりました。それは、現在の宇宙に存在するすべての物質とエネルギーが、極めて小さな領域に詰め込まれた状態でした。
「ビッグバン(大きな爆発)」という名前から、空間の中の「一点」で何かが爆発したように想像しがちですが、これは正確ではありません。 正しいイメージは、空間そのものが、宇宙のあらゆる場所で同時に、急速な膨張を開始した、というものです。この膨張によって宇宙は冷やされ、密度が下がり、その過程で素粒子が生まれ、やがて原子(主に水素やヘリウム)が作られました。
そして、これらの原子が重力によって集まることで、星や銀河が誕生し、現在の広大な宇宙が形作られたと考えられています。
現在も宇宙が膨張し続けていること(遠くの銀河ほど速く私たちから遠ざかっていること)や、宇宙全体に満ちている「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」と呼ばれるビッグバンの「残り火」のような微弱な電波が観測されていることが、この理論の強力な証拠とされています。
【もっと詳しく】
ビッグバン理論(Big Bang Theory)は、アインシュタインの一般相対性理論の方程式を宇宙全体に適用した、フリードマン・ルメートル・ロバートソン・ウォーカー(FLRW)計量に基づく宇宙モデルです。この理論によれば、宇宙は過去にさかのぼるほど高温・高密度になります。
時間を巻き戻していくと、理論上は密度と温度が無限大になる「特異点(Singularity)」に達しますが、これは物理法則が適用できなくなる点であり、宇宙の最初期の状態(10^{-43}秒程度、プランク時間)を記述するには、一般相対性理論と量子力学を統合した「量子重力理論」が必要と考えられていますが、まだ完成していません。
宇宙誕生の 10^{-36}秒後から 10^{-32}秒後といった極めて短い時間に、「インフレーション」と呼ばれる、光速を(見かけ上)超える指数関数的な急膨張が起きたとする理論が、現在のビッグバン・モデルを補完しています。インフレーション理論は、宇宙がなぜこれほど平坦で均一なのか(平坦性問題・地平線問題)、そして現在の宇宙の大規模構造の「種」となった微小なゆらぎがどのようにして生まれたのかを説明できます。
インフレーション終了後、宇宙は高温の素粒子スープ(クォーク・グルーオン・プラズマなど)の状態となります。 宇宙の膨張・冷却が進み、誕生から約3分後には、陽子や中性子が結合して水素やヘリウム、微量のリチウムといった軽い元素の原子核が作られました(ビッグバン元素合成)。この理論が予測する元素の存在比率は、現在の観測結果と非常によく一致しています。
さらに宇宙誕生から約38万年後、宇宙の温度が約3,000K(ケルビン)まで下がると、原子核が電子を捕まえて中性の原子が誕生しました。これにより、それまでプラズマ中の電子によって散乱されていた光が、初めて宇宙空間を直進できるようになりました。この現象を「宇宙の晴れ上がり」と呼びます。この時に放たれた光が、宇宙膨張によって波長が引き伸ばされ、現在「宇宙マイクロ波背景放射(CMB)」として観測されています。CMBの温度のわずかな「ゆらぎ(非等方性)」が、のちの銀河や銀河団といった大規模構造の種となりました。
なお、「ビッグバン」という名称は、もともとこの理論に批判的で、宇宙は永遠に不変であるとする「定常宇宙論」を支持していた物理学者フレッド・ホイルが、1949年にBBCのラジオ番組でこの理論を「Big Bang(大ぼら話、でたらめな大爆発)」と揶揄(やゆ)する意図で使った言葉が、皮肉にも定着したものです。
■関連キーワード
- 宇宙の膨張 (Cosmic expansion)
- 宇宙マイクロ波背景放射 (Cosmic Microwave Background – CMB)
- 一般相対性理論 (General relativity)
- 特異点 (Singularity)
- インフレーション (Inflation)
- 元素合成 (Nucleosynthesis)
- 宇宙の晴れ上がり (Recombination / Decoupling)
- ハッブル=ルメートルの法則 (Hubble-Lemaître law)
