NASAが計画する「アルテミスII(Artemis II)」は、4名の宇宙飛行士を乗せて月を周回し、将来的な火星有人探査への足がかりとなる重要なミッションです。
このミッションにおいて、飛行士の生命を守り、ミッションを成功に導くために不可欠なのが「通信」です。何千マイルも離れた宇宙空間から、宇宙飛行士の声、映像、重要なミッションデータをどのように地球へ届けるのでしょうか?
今回は、NASAのアルテミスIIミッションを支える通信ネットワークと、新たに導入される光通信技術について解説します。
地球と月を結ぶ2つの巨大ネットワーク
アルテミスIIミッションでは、打ち上げから帰還までのフェーズに応じて、NASAの2つの異なる通信ネットワークが連携してデータをリレーします。

1. 近宇宙ネットワーク(Near Space Network: NSN)
打ち上げ直後や地球周回軌道上など、地球に近い領域での通信を担当します。メリーランド州にあるゴダード宇宙飛行センターが管理しており、世界中の地上局と中継衛星群を使用して、ナビゲーションサービスや通信を提供します。
2. 深宇宙ネットワーク(Deep Space Network: DSN)
宇宙船オリオンが「月遷移軌道投入(TLI)」噴射を行い、月へ向かう軌道に乗った後は、深宇宙ネットワークがメインの通信を引き継ぎます。
カリフォルニア州にあるジェット推進研究所(JPL)が管理するこのネットワークは、カリフォルニア、スペイン、オーストラリアの3箇所に設置された巨大アンテナ群で構成されています。地球の自転に関わらず、常にいずれかのアンテナが宇宙船を捕捉し、ほぼ途切れのない接続を提供する仕組みです。
NASA本部のケビン・コギンズ氏(SCaNプログラム)は、「信頼性の高い通信は有人宇宙飛行の生命線である」と述べ、これらのネットワークが将来の野心的な宇宙探査の舞台を整えていると強調しています。
従来の100倍!「レーザー通信」の実証実験
アルテミスIIの大きな注目点は、従来の電波通信に加え、レーザー通信システム(Orion Artemis II Optical Communications System: O2O)が搭載されることです。
このシステムは、赤外線レーザーを使用してデータを送信します。最近の実証実験(Deep Space Optical Communications)では、レーザー通信が従来の電波ネットワークと比較して100倍以上のデータを送信できることが証明されました。
これにより、宇宙飛行士による高解像度の画像や動画、そして重要な科学データを、数百万マイル離れた場所からでもスムーズに地球へ送ることが可能になります。アルテミスIIIには搭載されませんが、今回のアルテミスIIでの運用は、将来の月や火星での通信インフラに向けた重要なステップとなります。
月の裏側で訪れる「41分間の沈黙」
高度な通信技術を持つNASAですが、アルテミスIIには「通信が途絶える」瞬間が計画されています。
宇宙船オリオンが月の裏側に入ると、地球からの電波が月によって遮断されるため、約41分間の「通信ブラックアウト」が発生します。これはアポロ計画時代と同様の現象であり、地球ベースのネットワークを使用する限り避けられない課題です。
しかし、オリオンが月の裏側から姿を現すと、深宇宙ネットワーク(DSN)が即座に信号を再捕捉し、管制センターとの通信を復旧させる予定です。
将来は「月の周回衛星」でブラックアウトを解消へ
このブラックアウト問題を解決するため、NASAは「月通信中継ナビゲーションシステム(LCRNS)」プロジェクトを進めています。
これは月の周りに中継衛星を配置し、宇宙飛行士やランダー(着陸船)に対して常時接続可能な高帯域通信を提供する計画です。2024年には、Intuitive Machines社がアルテミスIIIミッションでの実証に向けた最初の月面中継システムの開発企業として選定されました。
火星を見据えた「繋がる」ミッション
アルテミスIIミッションは、単に月を周回するだけでなく、将来の深宇宙探査に向けた通信インフラの重要なテストベッドでもあります。
NASA宇宙運用ミッション本部のケン・バウアーソックス氏は、自身のISS(国際宇宙ステーション)での経験を振り返り、「宇宙通信はオプションではなく、クルーと地球のチームを結びつけ、安全とミッション成功を確実にする不可欠なリンクである」と語っています。
打ち上げから着水まで、進化したネットワークがクルーと地球を繋ぎ続けることで、人類の宇宙探査は新たなフェーズへと進んでいきます。
