遠い銀河が、まるで宝石を散りばめたように写るジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope、JWST)の画像。一方で、30年以上にわたり宇宙の「顔写真」を届けてきたハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope、HST)。ジェームズウェッブ ハッブル 違いをひと言で表すなら、見ている宇宙の「光」と「時代」が違う、ということです。
ウェッブは宇宙の始まりに近い時代、星や惑星が生まれる現場を赤外線で追います。ハッブルは紫外線と可視光を武器に、銀河、星雲、超新星などを鮮明に捉えてきました。どちらが上かではなく、2機がそろうことで宇宙の謎に立体的に迫れるのです。
ジェームズウェッブとハッブルの違いは「見る光」
人間の目に見える光は、電磁波のほんの一部です。ハッブルは主に紫外線、可視光、近赤外線を観測します。青く輝く若い星、ガス雲の構造、熱い天体から出る光を読み解くことに優れた望遠鏡です。
対してウェッブの主戦場は赤外線です。赤外線は、目には見えない「熱」の情報を含み、ちりを通り抜けやすい性質があります。星が誕生する場所はガスや宇宙じんに包まれているため、可視光では奥まで見通せません。しかし赤外線なら、そのカーテンの向こう側にある原始星や惑星形成円盤を捉えられます。
さらに決定的なのが、宇宙膨張による赤方偏移(redshift)です。非常に遠い銀河が放った紫外線や可視光は、宇宙を長時間旅する間に波長が引き伸ばされ、赤外線へ移ります。初期宇宙を観測するには赤外線の目が必要になる。このためウェッブは、ビッグバン後まもない時代の銀河候補を次々に見つけ、銀河形成の常識を揺さぶっています。
鏡の大きさは約7倍、集められる光は圧倒的
ハッブルの主鏡は直径2.4メートルです。これでも地上から打ち上げられた宇宙望遠鏡として歴史的な性能を誇ります。ウェッブの主鏡は、18枚の六角形ミラーを組み合わせた直径6.5メートル。面積で比べると、ウェッブはハッブルの約7倍の光を集められます。
暗い天体ほど、観測には多くの光が必要です。大きな鏡を持つウェッブは、はるか彼方にある暗い銀河、星の周囲にある微かな円盤、系外惑星の大気を通ったわずかな光まで分析できます。打ち上げ時に折り畳まれていた巨大な主鏡が宇宙空間で展開されたこと自体、前代未聞の挑戦でした。
ただし、「鏡が大きいから、すべての写真でウェッブが高解像度」という理解は正確ではありません。望遠鏡の細かく見分ける力は鏡の大きさだけでなく、観測する波長にも左右されます。ウェッブは長い波長の赤外線を主に見るため、可視光での細部観測ではハッブルが依然として強力です。目的によって最適な望遠鏡は変わります。
ハッブルは紫外線観測で代えが利かない
地球の大気は紫外線の多くを吸収するため、地上の望遠鏡では本格的に観測できません。そしてウェッブも紫外線を観測する設計ではありません。熱い星、銀河内のガス、ブラックホール周辺の活動、太陽系天体の大気などを調べる紫外線観測で、ハッブルは今も重要な役割を担います。
「ウェッブが登場したからハッブルは引退」という話ではありません。実際の研究では、ハッブルが可視光・紫外線、ウェッブが赤外線を担当し、同じ天体を異なる波長で観測するケースが増えています。一枚の美しい画像の裏には、複数の望遠鏡による分業があります。
軌道が違うから、設計も運用も違う
ハッブルは地表から約540キロメートル上空の低軌道を、約95分で地球の周りを回っています。宇宙飛行士がスペースシャトルで訪問し、故障した機器を交換したり、新しい観測装置を取り付けたりしたサービスミッションは有名です。初期に問題となった主鏡の収差も、補正光学系の追加で克服されました。
ウェッブがいるのは、地球から太陽と反対方向へ約150万キロメートル離れたラグランジュ点L2付近です。地球の影に完全に入る場所ではなく、地球・月・太陽をほぼ同じ方向に置ける軌道です。5層の巨大なサンシールドで太陽光を遮り、望遠鏡をマイナス200度以下の低温に保つことで、赤外線観測を可能にしています。
この場所は安定した観測環境を得やすい一方、宇宙飛行士による修理は現実的ではありません。ウェッブは打ち上げ後の展開が成功すること、機器が長く正常に動くことを前提に設計されています。ハッブルのように何度もアップグレードできないことは、ウェッブの大きなトレードオフです。
何が得意? 観測テーマで比べる
ハッブルが残した代表的な成果には、宇宙の膨張速度をめぐる研究、暗黒エネルギーの存在を示す超新星観測、ハッブル・ディープ・フィールドに象徴される深宇宙撮影があります。私たちが宇宙を「カラフルで構造に満ちた場所」と実感するきっかけをつくった望遠鏡でもあります。
ウェッブは、より遠方で赤方偏移した初期銀河、ちりの中で育つ星、若い星の周囲で進む惑星形成、系外惑星大気の分子に強みを発揮します。二酸化炭素、メタン、水蒸気といった成分の痕跡を調べる観測は、地球外生命が存在しうる環境を考えるうえでも注目されています。ただし、大気から分子を検出したことと、生命を発見したことはまったく別です。この距離感を保ってニュースを読むことが大切です。
ジェームズウェッブ ハッブル 違いは画像の色にも現れる
ウェッブの写真には、オレンジや赤が印象的な作品が多くあります。しかし、それは赤外線を人間の目で見える色に変換した「疑似カラー」です。ハッブルの画像も、複数のフィルターで撮影したデータを合成して色を表現している場合が少なくありません。
つまり、公開画像の色は単なる装飾ではなく、どの波長の光をどう割り当てたかという科学情報でもあります。青や緑が必ず低温、赤が必ず高温を意味するわけではなく、画像ごとの説明を確認する必要があります。美しさに驚いた次に、「これは何の光だろう」と問いかけると、宇宙写真は一段深く楽しめます。
ウェッブが見つめる赤外線宇宙と、ハッブルが積み上げてきた可視光・紫外線宇宙。その間をつなぐ視点を持てば、新しい観測画像が発表されるたび、単なる絶景ではなく、宇宙のどの層を切り取ったデータなのかが見えてきます。次に一枚の宇宙写真を開くときは、色だけでなく、望遠鏡、波長、そして光が旅してきた時間にも目を向けてみてください。
