地球への帰還起動を順調に飛行
2026年4月6日に月の裏側を回る歴史的なフライバイを達成したNASAの有人月周回ミッション「アルテミス2(Artemis II)」。ミッションは現在、飛行8日目(4月8日)を迎え、乗組員を乗せたオライオン(Orion)宇宙船「インテグリティ」は順調に地球への帰還軌道を飛行しています。
月引力圏を離脱し、一路地球へ
飛行8日目の起床時、オライオン宇宙船は地球から約32万2000km(20万278マイル)、月から約13万4000km(8万3549マイル)の距離に位置していました。起床を告げるウェイクアップ・ソングには、クイーンとデヴィッド・ボウイの『アンダー・プレッシャー』が選ばれ、カナダ宇宙庁(CSA)からのメッセージも届けられました。
前日の4月7日、宇宙船は「月作用圏(Lunar sphere of influence)」を離脱しました。月作用圏とは、地球の重力よりも月の重力の影響が強く及ぶ宇宙空間の領域のことです。ここを抜けたことで、オライオン宇宙船は完全に地球の重力に引かれて加速しながら帰還するフェーズに入っています。
重力変化に備える:宇宙での健康維持と「耐起立性低血圧ウェア」のテスト
長期間の微小重力(無重力)環境に滞在した宇宙飛行士が直面する最大の課題の一つが、地球の重力圏に戻った際の急激な体調変化です。飛行8日目には、この課題に対処するための2つの重要な取り組みが行われました。

1. フライホイールを用いたエクササイズ 宇宙空間ではダンベルなどの「重り」が使えないため、「フライホイール」と呼ばれる専用の運動器具が使用されます。ケーブルを引く際の円盤(フライホイール)の回転慣性を利用して負荷を生み出す仕組みで、スクワットやデッドリフトのような筋力トレーニングと、ボート漕ぎのような有酸素運動の両方を行うことができ、筋力低下を防ぎます。
2. 耐起立性低血圧ウェア(Orthostatic intolerance garment)の着用テスト 宇宙空間では血液が体の上半身に移動しやすくなりますが、地球の重力下に戻ると急激に血液が下半身に下がり、脳への血流が減って立ちくらみや失神(起立性低血圧)を引き起こす危険性があります。4人のクルーがテストしたこの専用ウェアは、オライオンのクルーサバイバルスーツ(再突入時に着用するオレンジ色の宇宙服)の下に着用するものです。下半身に物理的な圧力をかけることで血液の下半身への集中を防ぎ、安全に地球の重力へ再適応できるようサポートします。
オライオン宇宙船の手動操縦とスケジュールの最適化
この日のスケジュールには、当初オライオン宇宙船の手動操縦デモンストレーションが組み込まれていました。これは、宇宙船の窓から特定のターゲットを中心に捉え、宇宙船の尾部を太陽に向ける「Tail-to-Sun(尾部対太陽)姿勢」へ手動で誘導するテストです。この姿勢制御は、太陽光による過剰な加熱を防ぎ、熱管理や電力生成を最適化するために不可欠な技術です。
しかし、ミッション前半および近接軌道運用(Proximity operations)の段階ですでに同様の手動操縦デモに成功し、ガイダンスやナビゲーションに関する十分なデータを取得できていたこと、そして後述する帰還に向けた船内準備を優先するため、地上管制チームの判断で22時55分に予定されていたテストはキャンセルされました。このような柔軟なスケジュール変更は、飛行が極めて順調に進んでいることの証拠でもあります。
4月10日のスプラッシュダウン(着水)に向けた最終準備
地球への帰還となる「スプラッシュダウン(着水)」は、米国太平洋夏時間(PDT)の4月10日(金)午後5時07分(日本時間4月11日 午前9時07分)、カリフォルニア州サンディエゴ沖の太平洋上が予定されています。
飛行9日目となる木曜日からは、着水に向けた本格的なキャビンの片付けや、大気圏再突入の手順確認が始まります。機材の収納や座席の固定など、安全な再突入に向けた準備に専念するため、予定されていた放射線シールドの展開デモンストレーションも見送られることになりました。
着水後は、アメリカ海軍の水陸両用ドック型輸送揚陸艦「ジョン・P・マーサ(USS John P. Murtha)」などの回収チームが待機しており、海上で宇宙飛行士とオライオン宇宙船を安全に収容する予定です。
人類が約半世紀ぶりに月の裏側を訪れたアルテミス2ミッションは、いよいよフィナーレを迎えようとしています。4人の宇宙飛行士が安全に地球の海へ帰還するその瞬間まで、SPACEDOORでは引き続き最新情報をお届けします。
