活動銀河核 (Active Galactic Nucleus)
銀河の中には、その中心部がまるで星々の大集団である銀河全体よりも遥かに明るく輝いているものが存在します。この異常に明るい中心核のことを「活動銀河核(かっぱつぎんがかく)」と呼びます。英語では Active Galactic Nucleus と表記され、しばしば AGN と略されます。
この驚異的な輝きの源は、星の光ではありません。銀河の中心に存在する、太陽の数百万倍から数十億倍もの質量を持つ「超巨大ブラックホール」に、周囲のガスや塵、星などが引き寄せられ、高速で渦を巻きながら落ち込んでいく際に解放される莫大な重力エネルギーです。このエネルギーが熱や光に変換され、中心核を眩いばかりに輝かせているのです。
活動銀河核は、その見え方や性質によって「クエーサー」や「セイファート銀河」など、さまざまな種類に分類されます。これらは、私たちが地球から観測する角度の違いなどによって異なって見えているだけで、本質的には同じ現象だと考えられています。宇宙で最も明るい天体の一種であり、遠方宇宙の様子を探るための重要な「灯台」の役割も果たしています。
【もっと詳しく】
活動銀河核(AGN)の統一モデルでは、中心に超巨大ブラックホール(Supermassive Black Hole, SMBH)があり、その周囲を物質が降着することで形成される降着円盤(Accretion Disk)が存在します。降着円盤はブラックホールに近づくにつれて高温になり、X線や紫外線といった高エネルギーの電磁波を強く放射します。これがAGNの輝きの主成分です。
降着円盤のさらに外側には、濃いガスや塵でできたドーナツ状の構造「ダスト・トーラス(Dusty Torus)」が存在すると考えられています。このトーラスが、中心核からの光を遮る「衝立(ついたて)」の役割を果たします。
AGNの分類は、我々の視線方向とこのトーラスの向きの関係で説明されます。例えば、トーラスを真横(赤道方向)から見ると、中心の明るい降着円盤や、そのすぐ近くで高速運動するガス雲(広輝線領域, Broad Line Region)が隠されてしまいます。これが「セイファート2型銀河」です。一方、トーラスを斜め上(極方向)から見ると、中心核が直接見えるため非常に明るく観測され、「セイファート1型銀河」や、さらに明るい「クエーサー(Quasar)」として観測されます。
また、AGNの中には、ブラックホールの回転軸に沿って、プラズマが光速に近い速度で噴出する「相対論的ジェット(Relativistic Jet)」を伴うものがあります。このジェットを真正面から見る形になると、ジェットからの放射が相対論的ビーミング効果によって極端に増光され、「ブレーザー(Blazar)」として観測されます。
このように、活動銀河核は、中心の超巨大ブラックホールと周辺構造、そして観測角度という要素が絡み合うことで、非常に多様な姿を見せる、宇宙の極限的な物理現象を研究するための格好の天体です。