天宮(てんきゅう / ティエンコン)
天宮(Tiangong / Tiangong space station)は、中国が独自に開発・建設した宇宙ステーションです。地球の低軌道(高度約340km〜450km)を周回しており、中国の有人宇宙開発計画における中核的な施設です。
「天宮」とは中国語で「天上の宮殿」を意味します。このステーションは、長期的な宇宙滞在、科学実験、技術実証、そして将来の月や火星探査に向けた拠点として機能することを目的としています。
天宮宇宙ステーションは、主に3つのモジュール(構成要素)を組み合わせて建設されました。
- 天和(てんわ / ティエンハー)コアモジュール: ステーションの基本となる中心部分です。宇宙飛行士の居住区、生命維持装置、ステーションの制御機能などを備えています。
- 問天(もんてん / ウェンティエン)実験モジュール: 主に生物科学や宇宙生命科学などの実験を行うための設備が搭載されています。
- 夢天(むてん / モンティエン)実験モジュール: 主に微小重力下での流体物理学、材料科学などの実験を行うための設備が搭載されています。
これら3つのモジュールがT字型に結合し、基本的な構成が完成しました。宇宙飛行士は「神舟(しんしゅう / シェンヂョウ)」と呼ばれる有人宇宙船で、物資は「天舟(てんしゅう / ティエンヂョウ)」と呼ばれる無人補給船で運ばれます。
【もっと詳しく】
天宮宇宙ステーションは、中国の宇宙開発計画「921計画(中国有人宇宙飛行計画)」の集大成の一つです。建設は2021年4月のコアモジュール「天和」の打ち上げから始まり、2022年10月に実験モジュール「夢天」が打ち上げられ、ドッキングしたことで主要な建設段階を完了しました。
このステーションは、国際宇宙ステーション(ISS)に次ぐ、現在軌道上にあるもう一つの多目的宇宙ステーションです。ISSの運用が2030年代に終了する可能性が議論される中、天宮は将来的に唯一の地球低軌道上の常設宇宙ステーションとなる可能性も秘めています。
主な特徴と計画:
- 設計寿命: 10年以上(メンテナンスやモジュールの追加により延長可能)
- 滞在人数: 通常3名。宇宙飛行士の交代時には一時的に最大6名が滞在可能です。
- 国際協力: 中国は、国連宇宙局(UNOOSA)などを通じて、他国の科学実験プロジェクトを天宮で実施する国際協力を進めています。
- 巡天宇宙望遠鏡(CSST): 将来的に、天宮と同じ軌道上に「巡天(じゅんてん / シュンティエン)」と呼ばれる大型の宇宙望遠鏡を打ち上げ、必要に応じて天宮とドッキングして修理や補給を行えるようにする計画もあります。これはハッブル宇宙望遠鏡に匹敵するか、それ以上の視野を持つとされています。
天宮は、アメリカやロシアが主導してきた宇宙開発の構図に、中国が新たな主要プレイヤーとして加わったことを象徴する存在となっています。
