キュリオシティが見つめた「奇妙なクレーター」
2012年、NASAのキュリオシティ・ローバー(探査車)は、火星探査のために「ゲール・クレーター」へと降り立ちました。
ゲール・クレーターは、巨大な衝突によってできた盆地でありながら、その中央には巨大な層状の山がそびえ立っているという、非常に奇妙な地形をしています。
この特異な景観はどのようにして誕生したのでしょうか?そして、その歴史は火星における生命の可能性について、私たちに何を教えてくれるのでしょうか?
数年にわたる探査の結果、キュリオシティはゲール・クレーターの壮大な物語を解き明かしつつあります。
ゲール・クレーターの誕生と水の時代(約37億年前)
現在の探査結果から推定されるゲール・クレーターの歴史は、約37億年前に遡ります。
巨大衝突と水の流入
1. クレーターの形成: 約37億年前、巨大な隕石が衝突し、初期のクレーターが岩盤に刻まれました。衝突によって表面が反発した結果、クレーターの中心には「中央の山」が残されました。
2. 水の時代: 当時の火星は現在よりも湿潤な時代でした。地下水は新しいクレーターに染み込み、さらに雨や融けた雪を供給源とする川もクレーター内に流れ込み、広大な湖を形成しました。
3. 地層の記録: これらの川は、砂利、砂、シルトといった堆積物を運び込みました。この堆積物は数百万年かけて積み上がり続け、各層が岩石として固まる過程で、当時の環境の記録(スナップショット)を残していきました。
環境の変化:乾燥化と風による浸食
時間が経つにつれ、火星は徐々に乾燥し、川は流れを止めました。
しかし、堆積物(砂や塵)は風によってクレーター内に吹き込まれ続け、水中で堆積した層は深く埋もれていきました。この間も、地下水は塵に覆われた表面のさらに深部に残っていました。
風が作り出した現在の姿
その後、堆積物を運び込んでいた風が、今度はその堆積物を削り取り始めるようになりました。
1. 浸食の開始: クレーターの縁に近い地域では、この風による浸食作用が古代の湖の堆積層にまで深く到達しました。
2. 地下水の流れと変化: 堆積物という重しが上から取り除かれることで、層には亀裂が入りました。この亀裂を通って再び地下水が流れ込み、層を変化させてから、最終的に乾燥していきました。
こうして、約30億年前までに、現在の私たちが見るゲール・クレーターの基本的な形ができあがったのです。キュリオシティは、この地形の中で物語を組み立てる手助けをしてきました。
4. 生命が存在しえた環境の証拠
キュリオシティの探査によって得られた証拠は、ゲール・クレーター、そして火星全般が、「もし生命が誕生したならば、しばらくの間生存できたかもしれない場所」であったことを示唆しています。
豊富な水と微生物に優しい環境
• 持続的な水: 堆積物のパターンは、数百万年にわたって、持続的な地下水と長期にわたる湖として、多くの水が存在していたことを示しています。ただし、時折の乾燥期も存在しました。
• 微生物に友好的な水: 鉱物や化学物質の分析結果は、湖と地下の両方の水が、潜在的な微生物にとって友好的な環境であったことを示しています。
生命を支える要素の発見
キュリオシティが湖底から採取した掘削サンプルからは、微生物が利用できたであろう以下の重要な要素が確認されています。
- 鍵となる元素
- 有機分子
- 栄養源
- エネルギー源
さらに、地下の亀裂を流れる水は、深く埋もれた岩石の中であっても、生命を支えることができた可能性があります。また、一部の層の組成は、過去の生命の潜在的な痕跡を保存するのに適していることも判明しています。
5. キュリオシティはさらに活動を続ける
ゲール・クレーターにおける探査は、かつての火星が、私たちが知る生命の生存に必要な条件を満たしていた、という強力な証拠を提供しています。
キュリオシティは主要なミッション目標を果たした後も探査を続けており、火星の歴史を明らかにしつつ、将来のミッションが古代生命の痕跡を探す方法や場所について、さらなる知見をもたらしています。