2026年1月8日、NASAは国際宇宙ステーション(ISS)に滞在中の「クルー11(Crew-11)」が、予定を早めて地球に帰還することを発表しました。一人の乗組員に発生した医療事案への対応として決定されたこの措置は、ISSの25年にわたる有人運用の歴史においても異例の判断となります。本記事では、JAXAの油井亀美也宇宙飛行士を含む帰還の背景や、ISSの今後の運用への影響について詳しく解説します。
医療事案の発生と早期帰還の決定
2026年1月7日、ISSに滞在中のクルー1名に医療事案が発生しました。NASAのジェレッド・アイザックマン長官によると、当該の宇宙飛行士の状態は現在「安定(Stable)」していますが、地上でのより詳細な検査と治療が必要であると判断され、クルー11全体が数日以内に帰還することになりました。
帰還に使用されるのはアメリカの宇宙企業スペースX社の「ドラゴン・エンデバー(Dragon Endeavor)」宇宙船で、以下の4名が搭乗します。
• ゼナ・カードマン(NASA:コマンダー)
• マイク・フィンク(NASA:パイロット)
• 油井亀美也(JAXA)
• オレグ・プラトノフ(Roscosmos)
「制御された迅速な帰還」と安全優先の姿勢
NASAは今回の帰還を、数時間以内に降りるような「緊急離脱(Emergency deorbit)」ではなく、「制御された迅速な帰還(Controlled expedited return)」であると強調しています。
ISSには高度な医療機器が備わっていますが、救急救命室のような全ての診断ハードウェアが揃っているわけではありません。NASAのチーフ・メディカル・オフィサーであるJ.D.ポーク博士は、リスクを最小限に抑えるため、「すべての診断ツールが揃っている地上でワークアップ(精密検査)を行うことが最善である」と述べています。
ISSの25年の歴史の中で、統計モデル(モンテカルロ分析)では3年ごとに一度は医療避難が発生すると予測されていましたが、実際に医療目的での帰還が行われるのは今回が初めてです。
Crew-11 緊急帰還の全スケジュール
NASAとSpaceXは、フロリダ沖やカリフォルニア沖の天候、および機体の準備状況を慎重に検討した結果、以下のターゲット日時を設定しました。
帰還タイムライン
現在の目標日時は以下の通りです。天候により変更の可能性があります。
| イベント | 現地時間 (米国東部標準時 EST) | 日本時間 (JST) |
| ISSドッキング解除 | 1月14日(水) 17:00 | 1月15日(木) 07:00 |
| 着水 (Splashdown) | 1月15日(木) 03:40 | 1月15日(木) 17:40 |
※着水場所は、気象条件に基づきカリフォルニア沖などが検討されています。
ISSの今後の運用と「クルー12」への影響
Crew-11の4名が去った後、ISSに残るのは以下の3名のみとなります。
- クリス・ウィリアムズ (NASA)
- セルゲイ・クド=スベルチコフ (Roscosmos)
- セルゲイ・ミカエフ (Roscosmos)
通常7名体制で運用されるISSが、一時的に3名の「最小人員(Skeleton Crew)」となります。これにより、科学実験の縮小や、予定されていた船外活動(EVA)の延期など、運用面での大きな影響が避けられません。
クルー11が帰還した後、ISSには2025年11月にソユーズMS-28で到着したクリス・ウィリアムズ宇宙飛行士が残り、米国のプレゼンスを維持します。
今後の運用における主なポイントは以下の通りです。
• 運用体制の一時的な縮小: 米国側セグメントの宇宙飛行士が1名となるため、通常2名で行う船外活動(EVA)は一時的に停止されます。
• 太陽電池パドルのアップグレード: 予定されていた新型太陽電池(iROSA)の設置は延期されますが、現在の電力構成は十分な余裕があるため、運用の継続に支障はありません。
• クルー12の打ち上げ前倒し: 現在2月中旬に予定されている「クルー12」の打ち上げを早めることが可能かどうか、NASAは商用パートナーと共に検討を進めています。
未来の火星探査へ向けた教訓
アイザックマン長官は、今回の事案もまた、将来の月面基地や火星探査といった深宇宙ミッションに向けた重要な学習の機会であると述べています。現在は地球に近いISSにいるため数日での帰還が可能ですが、遠方へのミッションではAIを活用した診断ツールや、より充実したオンボード医療機能が必要になることが再確認されました。
無事の帰還を祈って
今回のCrew-11早期帰還は、ISSの歴史に残る異例の事態です。しかし、NASAとSpaceX、そしてJAXAの連携により、万全の体制で帰還ミッションが進行しています。
油井飛行士たちの無事な帰還を、日本から見守りましょう。
