ブレーザー (Blazar)
ブレーザー (Blazar) とは、非常に遠方にある銀河の中心で活動している「活動銀河核 (AGN)」と呼ばれる天体の一種です。
その正体は、銀河中心に存在する「超大質量ブラックホール」が、周囲のガスや塵を猛烈な勢いで吸い込む際に発生するエネルギーです。ブレーザーが他の活動銀河核と決定的に違うのは、ブラックホールの両極から噴射される「相対論的ジェット」と呼ばれる超高速のプラズマのビームが、ほぼ真っ直ぐ地球(観測者)の方向を向いている点にあります。
例えるなら、強力な懐中電灯の光を真正面から覗き込むような状態です。そのため、ジェットが本来持っている明るさよりも桁違いに明るく(見かけ上、その銀河全体よりも明るく)観測されます。
また、非常に短い時間(時には数分単位)で明るさが激しく変動するのも大きな特徴です。ブレーザーは、電波から可視光線、X線、そして宇宙で最もエネルギーの高い光である「ガンマ線」に至るまで、あらゆる波長の電磁波を放出する、宇宙で最も劇的な天体現象の一つです。
【もっと詳しく】
ブレーザーは、活動銀河核 (AGN) の中でも、観測される放射がジェットに由来する成分によって支配されている天体群の総称です。その核には、太陽の数百万倍から数十億倍の質量を持つ超大質量ブラックホール (SMBH) が存在し、その周囲にはガスや塵が集まった降着円盤 (Accretion Disk) が形成されています。
物質が降着円盤からブラックホールに落ち込む際、その重力エネルギーと磁場の相互作用によって、円盤の回転軸方向に超光速に近い速度(光速の99%以上)まで加速されたプラズマのビーム、すなわち相対論的ジェット (Relativistic Jet) が噴射されます。
ブレーザーの最大の特徴は、このジェットが観測者の視線方向とごくわずかな角度(通常は数度以内)しか違わないことです。この配置により、「相対論的ビーミング (Relativistic Beaming)」(ドップラー・ブーストとも呼ばれる)という特殊相対性理論の効果が顕著に現れます。
ジェット内のプラズマが放出する放射(主にシンクロトロン放射や逆コンプトン散乱によるもの)が、地球に向かって運動する効果によって、本来の数千倍にも増光されて見えます。また、放射が青方偏移(エネルギーが高い方へずれる)し、時間変動のスケールも短縮されます。これが、ブレーザーが極めて明るく、激しい変動を示す理由です。
ブレーザーは、そのスペクトルの特徴(輝線の有無や強さ)によって、主に以下の2種類に分類されます。
- BL Lac天体 (BL Lacertae Object): 降着円盤からの放射が弱く、スペクトル上に輝線(特定の元素が出す光)がほとんど見られないか、非常に弱いタイプ。
- 平坦スペクトル電波クエーサー (FSRQ; Flat-Spectrum Radio Quasar): 降着円盤が明るく、クエーサーと同様の強い輝線が観測されるタイプ。
これらは「宇宙の天然の粒子加速器」とも呼ばれ、宇宙線の起源や、高エネルギーニュートリノの発生源としても注目されています。
キーワード
- 活動銀河核 (Active Galactic Nucleus – AGN)
- 超大質量ブラックホール (Supermassive Black Hole – SMBH)
- 相対論的ジェット (Relativistic Jet)
- 相対論的ビーミング (Relativistic Beaming)
- クエーサー (Quasar)
- BL Lac天体 (BL Lacertae Object)
- ガンマ線 (Gamma-ray)
- 降着円盤 (Accretion Disk)
