2026年4月10日(米国東部夏時間)、NASAの有人月周回ミッション「アルテミス2(Artemis II)」は、約10日間にわたる月周辺の旅を終え、無事に地球への帰還を果たしました。
4名の宇宙飛行士を乗せた「オライオン(Orion)」宇宙船は、午後8時7分(日本時間11日午前9時7分)に米国カリフォルニア州サンディエゴ沖の太平洋へ着水しました。この記事では、緊迫の大気圏再突入のタイムラインから回収作業の現在まで、NASAの公式発表をもとに最新状況を詳しく解説します。(以下のNASA TVのライブ録画動画で一部始終を見ることができます。)
アルテミス2ミッションと帰還した乗組員たち
アルテミス2ミッションは、人類を再び月へと送り出すNASAの巨大プロジェクト「アルテミス計画」における初の有人飛行テストです。この歴史的なミッションには、以下の4名の宇宙飛行士が搭乗していました。
- リード・ワイズマン(Reid Wiseman):司令官(NASA)
- ビクター・グローバー(Victor Glover):パイロット(NASA)
- クリスティーナ・コック(Christina Koch):ミッションスペシャリスト(NASA)
- ジェレミー・ハンセン(Jeremy Hansen):ミッションスペシャリスト(カナダ宇宙庁・CSA)
彼らを乗せたオライオン(ORION)宇宙船は月を周回し、宇宙空間の過酷な環境下で生命維持装置などの各種システムを実証テストした後、地球への帰路につきました。
音速の35倍!緊迫の大気圏再突入タイムライン
地球への帰還は、秒速約11km(音速の約35倍)という猛烈なスピードで大気圏に突入するため、ミッションの中で最も危険で重要なフェーズの一つです。今回の再突入から着水までの詳細なタイムラインは以下の通り進行しました。
- 午後7時33分(EST):サービスモジュール(機械船)の分離 宇宙飛行士が乗る「クルーモジュール(搭乗カプセル)」から、これまで宇宙空間で動力や生命維持機能を提供してきた「サービスモジュール」が切り離されました。不要となったサービスモジュールは、地上や船舶に危険を及ぼさないよう計算された軌道で太平洋上空の大気圏に突入し、安全に燃え尽きました。
- 午後7時37分:姿勢制御の燃焼 クルーモジュールは、大気圏突入に向けて極度の摩擦熱に耐えられるよう、底部にある耐熱シールド(ヒートシールド)が進行方向を向くように姿勢を調整しました。
- 午後7時53分:大気圏突入と「通信ブラックアウト」 高度約40万フィート(約122km)で地球の大気圏に突入しました。音速の35倍で猛進する宇宙船は激しい空力加熱を受け、周囲の空気がプラズマ化します。これにより電波が遮断され、約6分間の「通信ブラックアウト(通信途絶)」が発生しました。この間、オライオン宇宙船の耐熱シールドは2,700度を超える極度の高温から乗組員を守り抜きました。
- 午後8時00分:通信回復 プラズマの壁を抜け、NASAと宇宙船との通信が再び確立されました。乗組員の無事が確認される安堵の瞬間です。
- 午後8時03分〜8時04分:パラシュート展開 高度2万3,400フィート(約7.1km)で、まずは宇宙船を減速・安定させるための「ドローグパラシュート」を展開。その後、高度5,400フィート(約1.6km)で3つの巨大な「メインパラシュート」が開き、降下速度を秒速60メートル以下まで急減速させました。
- 午後8時07分:着水(スプラッシュダウン) パラシュートに吊るされたオライオン宇宙船は、サンディエゴ沖の太平洋へ静かに着水し、ミッションは無事コンプリートされました。

海上での回収作業と今後のステップ
着水後、オライオン宇宙船は不要なシステムをシャットダウンし、電力を節約しながら回収チームを待つ状態へ移行しました。
周辺海域では、NASAおよびアメリカ海軍・空軍の合同回収チームが、ドック型輸送揚陸艦「ジョン・P・マーサ(USS John P. Murtha)」を拠点として待機していました。着水確認後、チームは小型のインフレータブルボート(ゴムボート)で宇宙船へ接近しました。

宇宙飛行士たちのその後 乗組員は着水から約1時間後に宇宙船から運び出され、海軍のヘリコプターで揚陸艦へ移送されます。艦内で初期の医学的評価(メディカルチェック)を受けた後、陸地へ戻り、航空機でテキサス州ヒューストンにあるNASAのジョンソン宇宙センターへと帰還する予定です。
オライオン宇宙船のその後 主を失ったオライオン宇宙船に対しては、海軍のダイバーがウインチケーブル(牽引用のロープ)を取り付けます。その後、揚陸艦内部の「ウェルドック(注水可能な格納庫)」へ引き込まれて回収されます。宇宙船は一旦カリフォルニア州のサンディエゴ海軍基地へ運ばれた後、フロリダ州のケネディ宇宙センターへ送られ、詳細な機体検査やフライトデータの抽出が行われます。
アルテミス3への大きな一歩
アルテミス2の完全な成功は、次なるステップである「アルテミス3」——アポロ計画以来、半世紀ぶりとなる月面着陸ミッション——に向けた最大の関門を突破したことを意味します。今後の宇宙飛行士たち自身の口から語られる報告や、持ち帰られたデータの解析結果に、世界中の宇宙ファンの熱い視線が注がれています。
