「レモン彗星」と聞くと、2013年頃に夜空をエメラルドグリーンに染めた、あの美しい彗星を思い浮かべる人も多いのではないでしょうか。しかし、「レモン彗星」という名前は、実は特定の一つの彗星だけを指すものではありません。
この記事では、多くの人が疑問に思う「レモン彗星」の正体、名前の由来、そしてなぜあのように美しく緑色に輝くのかについて、詳しく解説していきます。
「レモン彗星」は「レモンの形」じゃない!名前の本当の由来
まず結論から言うと、「レモン彗星」という名前は、食べ物のレモンとは全く関係ありません。
この名前は、彗星の「発見者」に由来しています。
発見者は「レモン山サーベイ」
「レモン彗星(Comet LEMMON)」とは、アメリカ・アリゾナ州にあるレモン山サーベイ(Mount Lemmon Survey, MLS)という天文観測プロジェクトによって発見された彗星につけられる名前です。
- レモン山サーベイとは?: アリゾナ大学が運用する、地球に接近する可能性のある小惑星や彗星(地球近傍天体:NEO)を早期に発見するための自動化された大規模な観測プロジェクトです。
- 名前の由来: 観測所が設置されている「レモン山(Mount Lemmon)」から名付けられました。
Mt.LEMMON Sky Center 天文台
彗星は、国際天文学連合(IAU)のルールに基づき、発見者(個人またはプロジェクト名)の名前がつけられます。そのため、レモン山サーベイが新しい彗星を発見するたびに、「レモン彗星」という名前の天体が増えていくのです。
最も有名な「C/2012 F6 (レモン)」彗星
私たちが「レモン彗星」と聞いて真っ先にイメージするのは、おそらく C/2012 F6 (レモン) という符号が付けられた彗星でしょう。
なぜ緑色に輝くのか?
C/2012 F6 (レモン)は、2013年に太陽に接近した際、肉眼でも見えるほどの明るさに達し、その鮮やかなエメラルドグリーンの輝きで世界中の天文ファンを魅了しました。
この美しい緑色の正体は、彗星の核から放出されるガスに含まれる「二原子炭素($C_2$)」です。
- 彗星が太陽に近づくと、熱によって核(本体)から氷やチリ、ガスが放出されます。
- 放出されたガスの中に含まれる二原子炭素($C_2$)が、太陽の強い紫外線を浴びます。
- 紫外線によってエネルギーを得た二原子炭素が、そのエネルギーを光として放出する(蛍光)際に、特有の緑色の光を放つのです。
この緑色は、彗星の頭部(コマ)で強く見られますが、太陽光によって分解されやすいため、尾(テイル)まで緑色が続くことは稀です。
彗星の「正体」は「汚れた雪玉」
「レモン彗星」も、他のすべての彗星と同様に、その正体は「汚れた雪玉 (Dirty Snowball)」と表現されます。
- 主成分: 水や二酸化炭素、アンモニアなどの氷
- その他の成分: 岩石質のチリ(塵)や有機物
これらが混ざり合って固まった、直径数km〜数十km程度の小さな天体です。普段は太陽から遠く離れた極寒の宇宙空間にいますが、軌道に乗って太陽に近づくと、前述のようにガスやチリを放出し、光り輝く「コマ」や「尾」を形成します。
「レモン彗星」と名付けられた彗星リスト(一部)
レモン山サーベイは非常に多くの彗星を発見しているため、「レモン(LEMMON)」の名がつく彗星は多数存在します。以下は、その中でも特に知られているか、近年発見された彗星の一部です。
- C/2012 F6 (レモン):2013年に大増光し、緑色の輝きで最も有名になった彗星。
- C/2019 U6 (レモン):2020年にかけて観測された彗星。
- C/2021 A9 (レモン):2021年に発見された彗星。
- C/2023 H2 (レモン):2023年秋から2024年初頭にかけて、比較的明るく観測された彗星。
- P/2011 FR143 (レモン-PANSTARRS):レモン山サーベイと、別のサーベイプロジェクト「パンスターズ(PANSTARRS)」が共同で発見した周期彗星(P/)。
このように、符号(C/2012 F6など)によって区別されています。

次の「レモン彗星」はいつ見られる?
C/2012 F6 のような長周期彗星は、軌道が非常に大きいため、次にいつ戻ってくるかは数千年以上、あるいは二度と戻ってこない可能性もあります。
しかし、「レモン山サーベイ」は現在も精力的に観測を続けています。
つまり、新しい「レモン彗星」はいつ発見されてもおかしくありません。
次に発見されるレモン彗星が、C/2012 F6 のように明るく、私たちの目を楽しませてくれるかもしれません。最新の彗星情報は、国立天文台(NAOJ)やNASAのウェブサイトでチェックしましょう。
まとめ
- 「レモン彗星」は、特定の彗星ではなく、「レモン山サーベイ」が発見した彗星の総称。
- 名前の由来は、観測所がある「レモン山」から。
- 最も有名な C/2012 F6 (レモン) は、2013年に緑色に輝き、肉眼でも観測された。
- 緑色の正体は、太陽光で励起された「二原子炭素([Katex]C_2[/Katex])」。
- 新しい「レモン彗星」は、今この瞬間も発見されるのを待っています。
