ワームホール (Wormhole)
「ワームホール」は、宇宙空間に存在するかもしれない、時空(時間と空間)の異なる2つの点を結ぶ理論上の「トンネル」のことです。英語では Wormhole(ワームホール) と表記されます。
もしワームホールが実在し、安全に通過できるなら、何十億光年も離れた遠い宇宙(例えば、我々の銀河系からアンドロメダ銀河)へ一瞬で移動したり、あるいは過去や未来へ移動(タイムトラベル)したりできる「近道(ショートカット)」になると考えられています。
この名前は、リンゴの表面にいる虫を例えにしています。リンゴの表面のA地点から正反対のB地点へ行くには、表面をぐるりと這っていく(長い距離)必要があります。しかし、もし虫(Worm)がリンゴを突き抜ける穴(Hole)を掘れば、非常に短い距離でB地点に到達できます。 このリンゴを宇宙空間、表面を通常のルート、虫が掘った穴をワームホールに例えています。
SF作品では宇宙船が超光速移動を行う手段として頻繁に登場しますが、現在のところ、ワームホールはアインシュタインの一般相対性理論から導き出された数学的な可能性の一つであり、その存在は観測されていません。
【もっと詳しく】
ワームホールの概念は、アインシュタインの一般相対性理論の方程式の解として登場します。最も初期の単純なモデルは、1935年にアルバート・アインシュタインとネイサン・ローゼンによって提唱されたため、「アインシュタイン=ローゼン橋」とも呼ばれます。これは、ブラックホールと、その逆の性質を持つ(物質を放出するだけの)理論上の天体「ホワイトホール」を繋ぐものとして考えられました。
しかし、この種(シュヴァルツシルト・ワームホール)は非常に不安定であり、トンネルが形成されても光すら通過できないほどの速さで閉じてしまう(特異点になる)ことがわかっています。
人間や宇宙船が通過できる「通過可能なワームホール」が存在するためには、トンネルの「喉(スロート)」と呼ばれる最も細い部分が、強大な重力によって潰れないように「つっかえ棒」のようなもので支え続ける必要があります。 理論上、この「つっかえ棒」の役割を果たすためには、「負のエネルギー密度」や「負の質量」を持つ未知の物質が必要であるとされています。このような特殊な物質は「エキゾチック物質」と呼ばれています。
エキゾチック物質は、量子力学における「カシミール効果」などで局所的にその存在(負のエネルギー状態)が示唆されていますが、ワームホールを維持できるほど大量に、かつ安定的に存在できるかは全く不明です。そのため、ワームホールの実在は、現代物理学における大きな謎の一つとなっています。