渦巻銀河 (Spiral Galaxy)
渦巻銀河は、その名の通り、中心から渦を巻いたような美しい腕(渦状腕)が伸びている構造を持つ銀河です。私たちの住む天の川銀河も、この渦巻銀河の一種であることが知られています。
渦巻銀河は、大きく分けて3つの主要な部分から構成されています。
- バルジ (Bulge): 銀河の中心部にあり、明るく球状に膨らんだ領域です。主に年老いた赤い星が密集しており、中心には超大質量ブラックホールが存在すると考えられています。
- 円盤(ディスク, Disk): バルジを取り巻くように広がる、薄い円盤状の領域です。ここには、青く若々しい高温の星々、星の材料となるガスや塵(星間物質)が豊富に存在します。そして、この円盤部で渦状腕が形成されます。渦状腕は、特に星形成が活発に行われている領域であり、明るい星団や星雲が数多く見られます。
- ハロー (Halo): 銀河全体を球状に取り囲むように希薄に広がっている領域です。主に古い星々からなる球状星団や、目には見えない謎の物質「ダークマター(暗黒物質)」が分布していると考えられています。
夜空に見えるアンドロメダ銀河は、地球から最も近い巨大な渦巻銀河であり、肉眼でもその姿をぼんやりと確認することができます。
【もっと詳しく】
渦巻銀河の渦状腕がなぜ形成され、維持されるのかについては、長年の研究テーマとなっています。もし腕が単に星々の集まりで、銀河の回転と共に動いているだけだとすると、内側と外側での回転速度の違い(差動回転)によって、すぐに巻き付いて消えてしまうはずです。
現在、この渦構造を説明する有力な理論として「密度波理論」があります。これは、渦状腕を「物質の密度が高い波」であると考える理論です。銀河円盤を構成する星やガスは、この密度の高い波の領域に差し掛かると一時的に動きが遅くなり、渋滞のような状態になります。この渋滞領域でガスが圧縮され、新しい星が次々と誕生するため、腕が明るく輝いて見えるのです。星やガスは腕に留まり続けるわけではなく、通り抜けていきますが、波(腕の模様)そのものは銀河円盤の中を一定の速度で伝わっていきます。高速道路で特定の場所に自然発生する渋滞と、その中を流れる車の関係に似ています。
また、渦巻銀河は、アメリカの天文学者エドウィン・ハッブルが提唱した銀河の形態分類(ハッブル分類)において、「S」という記号で表されます。さらに、バルジの大きさと渦状腕の巻き込み具合によって、Sa、Sb、Scのように細分化されます。Saはバルジが大きく腕が固く巻いているタイプ、Scはバルジが小さく腕が緩く開いているタイプです。
加えて、中心のバルジが棒状の構造を持つものは「棒渦巻銀河(SB)」と呼ばれ、これも同様にSBa、SBb、SBcへと分類されます。近年の観測により、私たちの天の川銀河もこの棒渦巻銀河である可能性が非常に高いと考えられています。