NASA「Human Lander Challenge (HuLC) 2026」を発表:持続可能な月面探査を支えるECLSSの革新

NASAは、将来の宇宙探査の重要な課題に取り組むため、「Human Lander Challenge(HuLC)」を立ち上げ、大学レベルの学生チームからの革新的なアイデアを募集しています。このチャレンジは、アルテミス計画(Artemis campaign)における有人着陸システム(HLS)の技術開発を支援するための取り組みです。
HuLCは、宇宙飛行士を月面へ安全に運び、また軌道へ帰還させるためのランダー(着陸船)技術の進歩に学生が貢献することを目的としており、その成果はNASAの宇宙探査アプローチに革命をもたらす可能性を秘めています。
2026年チャレンジテーマ:長期宇宙飛行における生命維持システム(ECLSS)
2026年のHuLCは、「長期宇宙飛行環境制御生命維持システム(Environmental Control Life Support System, ECLSS)」をテーマとしています。
人類の探査が低地球軌道を越え、月面での持続的な滞在、さらには将来の火星ミッションへと向かう中、ECLSSの役割は極めて重要性を増しています。深宇宙ミッションの長期化、補給の制限、そして過酷な環境条件に対応するため、ECLSSの設計は独自の困難を伴います。
NASAのヒューマン・ランディング・システム・ミッション・システムズ・マネジメント・オフィス(NASA Marshall)の室長代理であるケビン・グティエレス氏によると、「堅牢なECLSSは、ランダーのような宇宙船を単なるハードウェアから、呼吸可能な空気、きれいな水、そして宇宙飛行士が安全に活動できる環境を提供する居住可能な環境へと変える」と述べています。ECLSSなくして、月面での持続的な滞在や火星への次の一歩は実現できません。
求められる革新的解決策(サブトピック)
2026年のHuLCは、ECLSS性能の向上を目指したシステムレベルの革新的な解決策を学生チームに求めており、以下のサブトピックのいずれかに焦点を当てる必要があります:
- 騒音抑制と制御 (Noise Suppression and Control)。
- ハードウェア健全性監視システムにおけるセンサーの削減 (Sensor Reduction in Hardware Health Monitoring Systems)。
- 飲料水ディスペンサー (Potable Water Dispenser)。
- 月面および火星の地表アセット間の流体移送 (Fluid Transfer Between Surface Assets on the Moon and Mars)。
参加資格、スケジュール、および賞金
HuLCへの参加は、米国の認定されたコミュニティカレッジ、カレッジ、または大学のフルタイムまたはパートタイムの学部生および/または大学院生で構成されるチームに開かれています。学際的なチーム編成が推奨されており、学生は授業内容を実際の航空宇宙設計コンセプトに組み込むことができます。
フェーズ | 内容 | 期限/開催期間 |
フェーズ1 | 提案書パッケージ提出 | 2026年3月4日 |
選考 | ファイナリスト選出(最大12チーム) | – |
フェーズ2 | 最終設計レビュー(フォーラム) | 2026年6月23日~25日 |
ファイナリストに選ばれた最大12チームには、9,000ドルの奨励金が授与され、アラバマ州ハンツビル近郊のNASAマーシャル宇宙飛行センター付近で開催されるフェーズ2に進出します。フェーズ2の上位3チームは、総額18,000ドルの賞金を分け合います。
提案書パッケージを提出する際には、「Vendor/W-9 Information Form」や「Proposal Faculty Advisor Attestation Form」などの必須アイテムを含める必要があります。
2025年HuLC:極低温流体管理技術の成果
NASAは、2025年のHuLC勝者についても発表しています。この年のコンペティションでは、極低温流体管理(Cryogenic Fluid Management)に関連する技術が主要な焦点となっていたことが、受賞プロジェクト名から示唆されます。
2025年の受賞チーム
• 優勝(First Place): エンブリー・リドル航空大学プレスコット校
◦ “Electrical Capacitance to High-resolution Observation (ECHO)”
• 準優勝(Second Place): オールド・ドミニオン大学
◦ “Structural Tensegrity for Optimized Retention in Microgravity (STORM)”
• 第3位(Third Place): マサチューセッツ工科大学
◦ “THERMOS: Translunar Heat Rejection and Mixing for Orbital Sustainability”
• ベストプロトタイプ(Best Prototype): オハイオ州立大学
◦ “Autonomous Magnetized Cryo-Couplers with Active Alignment Control for Propellant Transfer (AMCC-AAC)”
• ベストプレゼンテーション(Best Presentation): イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校
◦ “ECLIPSE: Efficient Cryogenic Low Invasive Propellant Supply Exchange”
• ベストポスター(Best Poster): ワシントン州立大学
◦ “CYPRESS (CrYogenic Performance REfueling Safety System) Coupler for Liquid Hydrogen Transfer”
これらの受賞チームに加え、カリフォルニア州立工科大学ポモナ校、コロラド鉱山学校、テキサスA&M大学、ニュージャージー大学なども2025年のファイナリストとして選出されました。
HuLCフォーラムと専門家
コンペティションのフォーラムは、通常、アラバマ州ハンツビルにあるハンツビル・マリオット・アット・ザ・スペース&ロケットセンターで開催されます。会場はハンツビル国際空港(HSV)から約10マイルの距離に位置しています。
フォーラムでは、各チームに最大25分間のプレゼンテーション時間が割り当てられ、その後、審査員による20分間の質疑応答が行われます。また、ファイナリストチーム全員が参加するポスターセッションも開催されます。
HuLCには、NASAの多様な専門分野のエンジニアや科学者が関わっています。例えば、ゲートウェイ電源・推進要素(PPE)のチーフエンジニアであるMonica Guzik氏、HLS(Human Landing System)推進システム分野のリードエンジニアであるReid Ruggles氏、そして長年の熱科学の経験を持つDr. Ali Kashani氏など、多くの専門家がチャレンジをサポートしています。
NASAのアルテミス計画は、科学的発見、経済的利益のために月を探査し、将来の火星への有人ミッションの基盤を築くことを目標としています。HuLCは、この壮大な目標達成に不可欠な次世代技術を開発する上で、学術コミュニティの才能と創意工夫を統合する重要な役割を果たしています。