スペース・ローンチ・コンプレックス4E
カリフォルニア州の美しい海岸線に位置するヴァンデンバーグ宇宙軍基地。その一角に、アメリカの宇宙開発史の重要な一翼を担い、現在も活発に利用されているロケット発射施設、スペース・ローン-チ・コンプレックス4E(SLC-4E) があります。極軌道への打ち上げに最適なこの場所から、数々の人工衛星や探査機が宇宙へと旅立ってきました。
概要
SLC-4Eは、ヴァンデンバーグ宇宙軍基地に存在する複数の発射施設の一つです。太平洋に面した立地を活かし、偵察衛星や地球観測衛星など、地球の南北両極上空を通過する極軌道へのペイロード(搭載物)打ち上げに特化しています。ケネディ宇宙センター(フロリダ州)が東向きの順行軌道への打ち上げに有利なのに対し、SLC-4Eはアメリカ西海岸における宇宙への重要なアクセスポイントとしての役割を担っています。
歴史:タイタンの時代からファルコンの時代へ
SLC-4Eの歴史は、冷戦時代の1960年代にまで遡ります。
- アトラス・アジェナ時代 (1964-1967): 当初は「PALC2-4」として建設され、1964年8月14日にアトラス・アジェナロケットの初打ち上げが行われました。この期間中、主にKH-7(ギャンビット)などの偵察衛星を軌道に投入しました。
- タイタン時代 (1971-2005): 1970年代に入ると、より強力なタイタンロケットに対応するための大規模な改修が行われました。タイタンIIID、34D、そして最終型のタイタンIVBがこの発射台から打ち上げられ、KH-9(ヘキサゴン)やKH-11(ケナン)といった国家安全保障を担う重要な偵察衛星を宇宙へ送り届けました。しかし、1986年4月にはタイタン34Dが打ち上げ直後に爆発するという大事故も経験しています。2005年10月のタイタンIVBの打ち上げを最後に、タイタンシリーズの運用は終了し、SLC-4Eは一時的にその役目を終えました。
- スペースX・ファルコン9時代 (2013-現在): 2011年、民間宇宙企業のスペースX社がこの発射台をリースし、自社のファルコン9ロケット用に改修を開始しました。古い固定サービス塔や移動式サービス塔は解体され、近代的な設備へと生まれ変わりました。そして2013年9月29日、改良型のファルコン9 v1.1がSLC-4Eからの初打ち上げに成功。以来、同社にとって西海岸の主要な打ち上げ拠点として、スターリンク衛星コンステレーションの構築や、アメリカ航空宇宙局(NASA)の科学ミッション、さらには国家偵察局(NRO)の機密ペイロードなど、多岐にわたるミッションを担っています。
主要な打ち上げロケットとミッション
SLC-4Eからは、時代を象徴する様々なロケットが打ち上げられてきました。
運用期間 | ロケット | 主なペイロード/ミッション |
1964-1967 | アトラス・アジェナ | KH-7 偵察衛星 |
1971-1982 | タイタン IIID | KH-9 偵察衛星 |
1983-1988 | タイタン 34D | KH-9, KH-11 偵察衛星 |
1991-2005 | タイタン IV | 改良型クリスタル偵察衛星、ラクロスレーダー画像衛星 |
2013-現在 | ファルコン9 | スターリンク衛星、NASAのDART(二重小惑星リダイレクト試験)、SWOT(地表水・海洋地形観測衛星)、NROL(国家偵察局)ミッションなど |
現在の姿と未来
現在、SLC-4EはスペースX社によって精力的に運用されており、同社の高い打ち上げ頻度を支える重要なインフラとなっています。打ち上げ後、ファルコン9の第1段ブースターは、かつてSLC-4W発射台があった場所を改造したランディング・ゾーン4(LZ-4) に着陸することもあり、ロケットの再利用を前提とした現代の宇宙開発を象徴する光景が繰り広げられています。
今後も、地球観測、通信、国家安全保障といった分野で、SLC-4Eはアメリカの宇宙活動において不可欠な役割を果たし続けていくことでしょう。西海岸から宇宙を見上げる時、そこには常にSLC-4Eの歴史と未来が刻まれています。